明日、5月15日はヨーグルトの日です!
僕は食品メーカーで開発職をしているのですが、これまで、特定保健用食品(トクホ)の基礎や、ヤクルトとピルクルの違いなどについて解説してきました。
今日は(明日ですが)ヨーグルトの日にふさわしく、ヨーグルトのレビュー記事を書いていきます!
このカテゴリも、パルテノなど、嗜好性ヨーグルトについてはいくつか書いていますね。
今日は初めて、健康特化型ヨーグルトをレビューしていきます!
健康特化といえば、『明治プロビオヨーグルトR−1』(以下R1ヨーグルト)が最も有名ですね。
『強さをひきだす』がコンセプトですが、その意味とは…。
今日は健康特化型ヨーグルトでトップを走るR1の作用機序から風味評価まで、徹底的に解説していきます!
R1ヨーグルトの成分と風味評価
原材料と栄養成分
試食対象は、通常の明治プロビオヨーグルトR−1と、その低脂肪タイプです。
今回のトピックは成分と味ではないので、サクサク説明します。ドリンクタイプも飲みましたが割愛。
まず、両者の栄養成分と原材料は下記の通りです。
上記は全て1個(112g)当たりの値です。
通常のR-1でステビアを使ってる以外、特徴的な原材料は使用していません。
風味評価は後述しますが、元々味で売っている商品ではないので、非常にシンプルな成分となっています。
生乳ベースに乳製品で風味と栄養成分を調節しているだけですね。
低脂肪タイプは脂質が低いため、脱脂粉乳の使用量が多いのでしょう。牛乳から油分を除いた粉末が脱脂粉乳です。低脂肪タイプのヨーグルトには必須の乳製品ですね。
乳製品の比較についてはこの記事をご参照ください。
風味評価
R1ヨーグルトの風味評価結果は以下の通りです。
風味に関して特筆すべき項目は無いですが…
シンプルな微糖のヨーグルトですね。酸味は少し強めに感じました。
低脂肪タイプは酸味、甘味が弱く、わずかに通常のR1より舌触りがあっさりとしていました。
生乳本来の味、ミルク感は弱かったので、味自体に高級感は感じません。
『R1乳酸菌の健康効果』が、この商品のアピールポイントなので、味を際立たせる必要はありませんね。
あっさり、軽い舌触りで、毎日食べられる風味になっています。
パルテノのようなご褒美ではなく、日々の継続摂取が前提のヨーグルトだと、このようなライトな味作りが必要です。
R1ヨーグルトの健康効果
【参考文献】
Int Immunopharmacol. 2011;11(12):2246-50
1073R-1乳酸菌がつくるEPS(多糖体)の免疫賦活作用:食品工業 53(2);36-43(2010)
1073R-1乳酸菌とは
R1乳酸菌の正式名称は、
Lactobacillus delbruecki subsp. bulgaricus OLL1073R-1
です。
OLL1073R-1の前までが乳酸菌種の名前ですね。長い名前ですが、これはどのヨーグルトにも用いられているブルガリア菌と同じ種類です。
大事なのは、『OLL1073R-1』という株名です。
メジャーなブルガリア菌の中から、健康効果を持つ特定の物質を生産する菌株を探してきたわけですね。
では『ブルガリア菌のエリート』であるR1乳酸菌は、どんな物質を生産し、体内でどう作用するのか、掘り下げていきます。
作用成分と作用機序
EPS(細胞外多糖)とは
R1乳酸菌が生産する作用成分はEPS(細胞外多糖)と呼ばれています。
Exo(外部の)poly(多数の)saccharide(糖)の略です。
糖には様々な種類があります!環状の炭素に……
って話は置いといて…
例えば、最も代表的な糖はブドウ糖(グルコース)で、人間のエネルギーとなります血糖値が高いとは、血中のブドウ糖濃度が高いことを意味します。
他に、蜂蜜や果物に多く含まれる果糖(フルクトース)や、乳糖の構成成分であるガラクトースなどがありますが、これらは最も小さい糖類で『単糖』と呼ばれます。
ちなみに、乳糖はグルコースとガラクトース、2つの単糖が結合しているので『二糖』の一種です。簡単ですね。砂糖も二糖(グルコースとフルクトース)です。
糖の数が3〜10糖くらいになるとオリゴ糖と呼びます。オリゴ糖の種類によっては、腸内フローラで善玉菌の栄養になります。様々なオリゴ糖の生理活性が研究されており、フラクトオリゴ糖などは特定保健用食品(トクホ)に認定されています。
この流れで、単糖同士が多数結合した物質が『多糖』です。
代表的な多糖はでんぷんですね。これはグルコースのみが多数結合した多糖です。
対して、乳酸菌などの微生物が体外に放出する多糖(=EPS)は、糖の種類や、数、構造が多彩という特徴があります。
単糖だけでも数十種類ありますし、それが何万個結合するわけです。
その組み合わせだけ機能があると考えれば夢が広がりますね。
まずはここまで。単糖と多糖について、簡単に図示しておきます。
『強さを引き出す』とは『免疫活性化』のこと
乳酸菌の細胞外多糖には様々な生理活性が確認されています。
ネバネバの物性を利用した保湿剤として商品化している会社もありますよ。
メジャーな作用は『免疫賦活効果』ですね。
乳酸菌と腸内環境の基礎で解説していますが、体内の免疫を活発にして、病原菌に対する防御力を強める作用です。
R1乳酸菌のEPSは、この免疫活性化の機能が、他のヨーグルトの乳酸菌よりも顕著に高いことが特徴なのです。明治乳業が多数論文を投稿していますね。
R1乳酸菌のEPSが、どのように免疫を活性化するか、もう少し掘り下げてみましょう。
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)がウイルスを倒す!
ヨーグルトの基礎について書いた記事で、こんな画像を使いました。
出典:乳酸菌のプロが『腸内環境とヨーグルト』を徹底解説します! – レコメンタンク
腸管免疫による、病原菌に対する防御反応です。
これは、病原菌を腸の受容体が認識したことで起こる反応です。
そのため、反応が少し遅い反面、認識した病原菌(異物)をピンポイントで攻撃できます。
もう一つ、重要な免疫細胞が『NK細胞』です。
ナチュラルキラー細胞の略です。イケてる名前…。
ナチュラルキラー細胞は、他の免疫細胞と違い、特定の異物ではなく、体内に侵入した病原菌、異物(ガン細胞なども)に対して広く攻撃を仕掛けるという特徴があります。
そして、免疫器官からの指令がなくても単独で速攻を仕掛けることができるのです。
R1乳酸菌(のEPS)は他の乳酸菌よりも、このナチュラルキラー細胞の活性化作用が有意に強いことが研究結果により明らかになったのです。
R1ヨーグルトの健康効果において、細胞、マウスから、ヒト試験まで効果が確認されているのは、このNK細胞の活性化になります。
それ以外にも、インフルエンザワクチンの効果増強や、ヨーグルトの経口摂取によってインフルエンザに感染したマウスの生存率が上昇するなどのデータがあります。
ただ、細胞レベルでのメカニズム解明には至っておらず(免疫活性化によることは明らかですが)、現象として定量的なデータがある、という段階です。
最後に、この『NK細胞の活性化』がどんな効果を引き起こすのか、解説していきます。
結局R−1ヨーグルトを食べるとどうなるの?
NK細胞の活性化…と言われても、という話ですよね。
記述の通り、NK細胞は異物の種類を問わず攻撃すると言いました。
ちなみに、人間の正常な細胞は攻撃しません。正常細胞特有の構造を判断して攻撃をキャンセルできるのです。
すなわち、『NK細胞の活性化は、病原体全体に対する攻撃力が上がる』ことにつながります。
『インフルエンザに効く』や『ガン細胞に効く』など、病名が先行していますが、何か特定の病気に対する効果があるわけではありません。
R1乳酸菌は、乳酸菌(ヨーグルト)のメジャーな健康効果である『免疫系に作用し、病原菌に対する抵抗力をつける』能力が、他の乳酸菌より優れているということです。
まとめ:R1ヨーグルトは万能なのか
R1ヨーグルトは『トクホ』ではありません。なんででしょう。
R1ヨーグルトのコンセプトは『免疫の活性化』であり、『腸内環境を整える』と言った文言と違って、『病気の治療』に該当する可能性があります。
病気に勝つ!なんて言うと『医薬品』扱いになってしまうのです。
ただ、明治乳業の研究がどんどん表に出てきた結果、こういった効果を謳えないにも関わらず、健康特化型のヨーグルトとして爆発的なヒットになったわけです。
R1ヨーグルトは免疫活性化という意味では万能型ですが、食べれば病気にならないわけではありません。
食物繊維と便秘解消の記事でも書いたように、食生活と運動が基本であって、ヨーグルトはそれらを補佐する役目に過ぎないのです。
データの裏付けがある健康食品に変わりないですが、0か100かで考えず、生活全体のトータル管理が健康管理の基本ですね!
とりあえず…
ヨーグルト食べようぜ。
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