さて、酵素ドリンクやコラーゲン、水素水など、新しい健康食品が次々と創られています。
ヘルスケアに関して意識高い(笑)人達の頑張りには目を見張るものがありますね!
さて、これらの健康食品と同列で語られることが多いのが『ミドリムシ』です。
ミドリムシ関連製品の研究開発、製造を行っている株式会社ユーグレナというベンチャー企業も有名ですね。
ちなみにユーグレナはミドリムシの学名です*1。
さて、このミドリムシですが、『健康食品』として扱うには、
『ちょっと待った!』
と言いたい。
ミドリムシ自体は様々な可能性を秘めている生物です。
ただ、健康食品かと言うと…??
今回はミドリムシ(ユーグレナ)の健康効果や栄養成分、関連技術まで、我々の生活に直結する基礎知識を解説していきましょう。
※混乱をさけるため、以降は”ミドリムシ”に統一し、”ユーグレナ”は企業名を表します。
ミドリムシとは
ミドリムシは記述の通り、水中に生息する藻類の仲間です*2。世界中の至る所に見られます。
鞭毛というによって運動する”動物的な”性質を持ちますが、葉緑体によって光合成を行う”植物的な”性質も併せ持ちます。
栄養成分は後述しますが、動植物の中間のような成分に仕上がっております。
(株)ユーグレナは健康食品メーカーなのか?
ミドリムシの研究開発を担う企業として有名なのが株式会社ユーグレナです。
ミドリムシ関連の食品や化粧品のイメージが強く『健康食品メーカー』のイメージが強いかもしれません。
ミドリムシというと最近は怪しげな健康食品のイメージが強いですが、元々は、
『途上国の貧困地域において、栄養不足を解消するためのバランス食品』
を目的に食品用途としての研究が始められました。
そこから派生し、現在では燃料や化成品の原料などへのアプローチが進められています。
(株)ユーグレナは、表向きは健康食品メーカーかもしれませんが、本来はミドリムシを用いたバイオ燃料に関する研究や、その基礎となる大量培養技術によって地位を築いている企業です。
”ミドリムシ”の本質は、健康食品ではなく『栄養補助』と『科学技術』なのです。
この点をトピックとして考察していきましょう。
ミドリムシの健康と栄養
【参考資料】日本人の栄養摂取基準(厚労省)、栄養成分データベース(文科省)、ミドリムシ大活躍!小さな生物が創る大きなビジネス(日刊工業新聞社)など
栄養バランスは素晴らしい
まずは自分で食べてみましょう!
※私物のミドリムシです。
うん。
ただの粉だ。
…アミノ酸などが多種含まれているので、多少の旨味を感じますが、単独で調味料代わりにするのは難しそうです。
不味くはないですけどね!くら寿司のお茶みたいにお湯に溶いたら美味いかもしれません(?)
さて、栄養満点と呼ばれるミドリムシですが、ミドリムシに含まれる栄養素は以下の通りです。
現時点で、ミドリムシの栄養成分の正確な組成は、国のデータベースに登録されていません。
温度、栄養源、酸素、光などの培養条件によってミドリムシの栄養成分比は大きく変わるためです。例えば、バイオ燃料として用いる時は油分を高める条件で培養します。
とはいえ、栄養バランスはかなり優れています。
必須アミノ酸9種を全て含むことに加えて、各アミノ酸のバランスも良く、吸収性に優れています*3。
不飽和脂肪酸を多く含むのは植物の特徴に近いですね。不飽和脂肪酸はコレステロール低下効果が解明されています。
また、ビタミンCや葉酸といった植物に多いビタミンと、ビタミンB類など動物に多いビタミンの両者を含んでします。
ビタミン、ミネラルの豊富さは、動植物両方の特徴を持つミドリムシの一番の長所といえます。
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『栄養補助食品』にありがちな勘違い
さて、ミドリムシは『健康食品』と称されることがありますが、ミドリムシ自体に何か特別な疾病を治療する効果は(今の所)ありません。
思考停止で流行りだからと食べてみるのは良いですが、ミドリムシが優れているのはあくまでも『栄養バランス』です。
『栄養失調に近い人』にとっては効果的な食品でしょう。飼料としても優秀です。
仮に『実用化できれば』ですがね。
そもそもこういったバランス食が日本人に最適かといわれると疑問です。
そもそも日本人は栄養過多です。
問題なのは偏った食生活による一部ビタミン、ミネラルの不足であり、野菜や豆類などを取り入れて食のバランスを改善すれば、ミドリムシをわざわざ食べる必要はありません*4。
3食ミドリムシ団子だけを食べれば栄養バランスは良いかもしれませんが…非現実的ですね。そんなに美味しいものではないですし。苦笑
どうしても食生活のバランスが悪くなってしまう時の補助食品としてなら期待できるという表現に留めておきましょう。
ミドリムシ(ユーグレナ)の研究と技術革新
【参考】世界の農業と食糧問題のすべてがわかる本(ナツメ社)、ユーグレナの細胞機能の解析と新規資源生物としての利用(1989)など
ミドリムシと食糧危機・貧困
さて、そもそもミドリムシ関連食品のルーツは、食糧危機に向けた栄養補助食品という考え方です。
国連のデータによると、国別の栄養不足人口の割合ベスト10は全てアフリカが占めています。加えて新興国の人口増加や、農業従事者の減少など、世界的には食糧不足が懸念されています。
食資源に乏しい貧困国では、芋や家畜などから肉や炭水化物は摂取できますが、ビタミンやミネラルが日常的に不足します。果物や海産物なんて贅沢品ですしね。
既述の通り、飢餓…特に慢性的な栄養バランスを改善する上で、ミドリムシは優れた新規食材として期待されています。
では『なぜミドリムシなのか』掘り下げていきましょう。
ミドリムシとバイオ燃料、科学技術
ミドリムシは藻類なので水中で増殖します。
簡単に言うと大きなプールで、栄養源、二酸化炭素、光などを与えることで増殖させます。
現在、実用化を想定した1平方kmの培養プールで生産できるミドリムシは油脂換算で日間約11.4tとされています(ユーグレナ社)。簡単に言うと1km×1kmのプールで1日約10tのバイオ燃料ができる計算です。
また、化石燃料や農作物と異なり、培養環境を維持できればミドリムシは増殖し続けるので連続的に回収(収穫?)できます。
培養成分に関しても、二酸化炭素を吸収して増殖するため、”一般的な微生物の培養より”もコスト的には優位です。一般食材としてコストに見合うレベルではありませんが。
加えて、トウモロコシなどの農産物を利用したバイオエタノールと異なり人間の食糧と競合しない点、また、農産物と違って場所や季節に融通が利きやすい点などがメリットと考えられています。
『ミドリムシ燃料を燃やして出た二酸化炭素は、元々ミドリムシが大気中から吸収したものだから排出量はゼロ』という考え方もありますが、この考え方は個人的にあまり好きではないので割愛します…。
- 人間の食糧と競合しない
- 季節変動を考えずに生産できる
- 環境負荷が少ない
- 研究が活性化しており、コスト面での技術革新(大量生産技術)が進んでいる
こういった観点から、ミドリムシは栄養源やバイオ燃料として注目されているのです。
(環境負荷が少ないという言葉を、二酸化炭素の排出量取引などに結びつけたがる権力者も…おっと…)
他にも、実用レベルには達していませんが、バイオプラスチックや医薬品への応用も進んでいます。
また、ミドリムシは1つだけ他の動物にはない化合物を持っています。
パラミロンというデンプンに近い物質ですが、食物繊維に似た効果*5を持つことが解明されていたり、保水性を利用した化粧品などの化成品原料としても期待されています。
おわりに
ミドリムシ!ユーグレナ!と、日本では『健康食品』のイメージが先行してしまっていますが、元々は用途が多岐にわたる素材です。
少なくとも”酵素ドリンク(笑)”や”コラーゲン(笑)”とはジャンル違いです。
個人的には、少なくともクロレラやバイオエタノールよりは期待できる技術だと感じているので、怪しい健康食品として遊ばれて終わらないことを願いますが…。
例えばサプリメントとして用いるにしても、『バランスに優れた』ということは、何か一つを補うためだけなら役不足とも言えます。
自分の状態を正しく理解して、自分に合った栄養源を摂取していきたいですね。
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*1:分類上は”ユーグレナ植物門ユーグレナ藻網ユーグレナ目に属しているユーグレナ”の総称がミドリムシである。ちなみにミドリムシにもいくつか種類がある。とってもややこしい。
*2:”藻類”は光合成を行うシアノバクテリア、真核単細胞生物、海藻類などの総称。地上の植物は含まれない。また、ミドリムシは”微生物”や”プランクトン”でもある。これらは分類上のある生物集団をまとめた総称。ややこしい。
*3:ミドリムシのアミノ酸スコアは83。アミノ酸スコアは必須アミノ酸の含有バランスを理想値100としてスコア化したものである。ミドリムシはチーズや豆乳などと同等レベルのスコアとなっている。
*4:ダイエットやジャンクフードなど、偏った食生活をする人が多いので日本などの先進国でもビタミンB1などの欠乏症になる人はいる。
*5:食物の吸収抑制など