最近、ある本を読みふけっている。
『1998年の宇多田ヒカル』
センセーションを巻き起こしたデビュー当時の宇多田ヒカルに始まり、共に時代を作った浜崎あゆみ、aiko、椎名林檎とともに、現在まで続く音楽シーンを綴った作品である。
この書籍の内容については、いちJ−POPファンとして言いたい事があるが、それは読み終わり、噛み砕いた後に取っておくこととする。
今日は、私が最も愛するアーティストである宇多田ヒカルに焦点を当て、その世界観を良曲とともに語っていきたい。
デビュー〜1st Album:First Love
宇多田の登場:Close to you/Cubic U
初めて宇多田ヒカルの声が世に出たのはCubic U名義で発表されたClose to youである*1。
楽曲自体はカーペンターズのカバーだが、全く異なったテイストで歌い上げる世界観は、明らかに15歳(当時)のそれではなく、完成された1人のアーティストである。
この楽曲では、以降に見られる宇多田ヒカルの”繊細さ”の片鱗はあるものの、この時点ではむしろ米メインストリームのR&Bシーンでよく流れるメジャーサウンドに聴こえた。
時代が変わるが、この楽曲にはMonicaやKeyshia Coleと同じ雰囲気を感じた。彼女達が持つような力強さとはまた違う表現で歌っているが。
いずれにしても、J−POPシーンでは見られないような、宇多田の丁寧なR&Bサウンドが聴けるので、興味のある方は是非確認していただきたい。
デビューシングル:Automatic/time will tell
言わずと知れた宇多田ヒカルのデビューシングルである。
いきなりのミリオン、15歳、藤圭子の娘、当時のJ-POPには無かった本格的R&Bサウンド。センセーショナルなデビューを飾り、今でもこの曲を知らない日本人はほとんどいないだろう。
ただ、当時の私はこの曲にあまり興味を示さなかった。
数年後に何度も聴くことになるのだが、当時10歳の私にはAutomaticのサウンドが理解できず、テレビでよく流れてくる人気歌手の1人としか捉えていなかった。
また、小学生の私は、”歌唱力”を“声域の広さ”と”声量”だけで判断しており、彼女のサウンドが持つ深さは難解すぎた。むしろ両A面でプッシュの少なかったtime will tellを気に入っていた記憶がある。現在でもどちらか選ぶとすればtime will tellのシンプルなメロディーラインの方が好みだ。
Movin’ on without youに見る宇多田の展開力
当時の私の心を捉えたのは、むしろ2nd singleのMovin’ on without youである。
スタートで一瞬流れるギターサウンド、小気味のよいリズム、振り幅のあるAメロからのサビの盛り上がり…私が本格的に宇多田ヒカルにハマるきっかけを作った1曲である。
3rd single First Loveにおける、
最後のキスはタバコのflavorがした
から始まる歌詞が、当時10代半ばの少女(この単語がこれほど似合わない女性も珍しいが)が作った音楽とは思えないとフィーチャーされることが多いが、私はむしろこの年齢の少女がMovin’ on without youを作詞作曲したことの方が驚きである。
この曲もよく見れば、男性との別れを強い口調で綴る日本語詞に対して、
Nothing’s gonna stop me
only you can stop me
と、英語詞部分には女性なりの葛藤が描かれており、1つのドラマを1曲で完結させる彼女の才能が溢れている。 後述のUtadaにも続くが『1曲で物語を完成させる』ことに関して、彼女以上のアーティストを私は知らない。
余談だが、この曲は浜崎あゆみがカバーしており、また違った世界観で表現されている。当時、ミュージックステーションで共演し、微妙な雰囲気になっているのをリアルタイムで見ていた身としては、感慨深い1曲である。
2nd Album:Distance
For You/タイム・リミット
両A面 6th singleのFor Youでは、宇多田ヒカルの持つ繊細さを存分に発揮しているが、タイムリミットは米メインストリームで散見されるポピュラーなメロディーラインを感じる。
ミディアムテンポの楽曲という共通点がありながら、対局と言えるサウンドで構成されており、彼女のセンスがよく現れた1枚である。
『不安定さ』と Can You Keep A Secret ?
月9ドラマ『HERO』の主題歌となり、この時期の楽曲では最も知名度の高い1曲である。
どちらかというと『売れ線に走った』楽曲(悪い意味ではない)で、140万枚(オリコン)を超えるヒットとなった。
この楽曲では繊細さというより、アップテンポのサウンドに一見似合わない『不安定さ』を感じた。『不安定さ』とは、音程が外れそうで外れないメロディーで心を震わせてくる独特のサウンドと捉えてもらいたい。
しかし、その『不安定さ』は楽曲を良い意味で特徴付けており、この表現は彼女だからできるものだろう。
(元小室ファミリーのtohko(籐子)で同じ感覚を味わえるが、覚えている人はいるだろうか…)
3rd Album: DEEP RIVER〜4th Album ULTRA BLUE
挑戦的なPV:travelling〜光〜SAKURAドロップス
この頃(2002〜)の宇多田ヒカルはPVでの表現が突出している。
それ以前も、近未来のシーンが印象的なWait & See〜リスク〜など、目を引く映像作品が見られていたが、宇多田史上最高のPVとも言われるtravellingを初め、ワンカットで表現した光など、前夫の紀里谷和明によって創られたPVは傑作と言える。
特に幻想的な世界が描かれたSAKURAドロップスはその真骨頂で、孔雀、花、骨、妖精、羽、雨、そして不死鳥と、『生命』をあらゆる手段で詰め込み、表現した世界は圧巻である。
DEEP RIVERにおける良曲揃いのB面曲
アルバムを通して楽曲全体を見れば、DEEP RIVERの収録曲を最も気に入っている。シングル曲に限らず、全てのトラックがキャッチー、そしてよりクールな仕上がりになっている。
例えば、嘘みたいなI Love YouのサウンドはRockテイストを取り入れ、宇多田ヒカルの新しい一面が感じられ(サビのメロディは後に”光”の英詞verであるSimple And Cleanとなる)、A.S.A.Pは抑揚の効いた極上のR&Bである。
プレイ・ボールはキャッチーでテンポの良いサウンドでありながら、人間の強さと弱さを交互に見せる彼女らしい歌詞が感じられる。その歌詞は、
生意気そうと思われる第一印象 気にしないで
そう最高の防御は時に攻撃だと言うでしょ
から始まりつつ、相手との駆け引きに不安を感じる情景が浮かぶが、この点は少なからず、Movin’ on without youの世界観と重なる。
COLORS〜Keep Tryin’
『PV遊戯』はULTRA BLUE収録曲(〜2006)でも続く。
当時としては珍しく紀里谷和明以外の手で創られたCOLORS(ドナルド・キャメロン作)は、モノクロ中心の世界の世界で描かれ、SAKURAドロップスと対極の表現で、『生命』を映している。
(この映像からは『生命』に加え『死』のイメージも伝わってくる)
以降も特徴のあるPVが続くが、Keep Tryin’ではそれまでとは一転してコミカルな宇多田ヒカルを見ることができる。ウェイトレスや婦警、政治家、女子高生など、次々と変化する彼女だが、やはりどこか幻想的である。世界観は崩さずに多様な表現を見せる彼女の『幅』は、まさにアーティストである。
Utada: EXODUSとThis Is The One
宇多田ヒカルは2004年と2009年に全米でアルバムをリリースしているが、billboardに与えた影響という意味では『失敗』と見る人も多い。
しかし、作品としてはむしろ宇多田ヒカル以上に挑戦的で、魅力的な楽曲が多い。
特にEXODUSに習得されているKrenlin Duskの世界観、静寂から徐々に勢いを増し、サビで爆発するサウンドは、何回聴いても鳥肌が止まらない。最高の盛り上がりは最初のサビではなく、一度期待を裏切った後に最後のサビで爆発する。宇多田ヒカルの楽曲を含め、私が最も聴いている1曲である。
少なくとも私は、この曲の
I am a natural entertainer
及び
I run a secret propaganda
の歌詞は、彼女の新しい挑戦を体現しているように見えた。
ライブ映像も見ることができるので、見たことがない人がいれば一度見て頂きたい。宇多田ヒカルではなくUtadaの『強い』パフォーマンスに驚くはずである。
残念な点を挙げれば、EXODUSと比較し、This Is The Oneの楽曲は少し小粒に感じられる。全体的に『置きにいった』印象が拭えず、彼女の持つ『繊細さ』と『強さ』の両者が中途半端になっているように感じた。
5th Album HEART STATION〜活動休止
現時点で彼女の最後のシングルが、このアルバムに収録されているPrisoner Of Loveである。その後、前述のThis Is The Oneを発表するが、ほどなくして2010年、彼女は活動休止を発表する。
ここでは、Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2に収録されているGoodbye Happinesを紹介したい。
リード曲となるこの楽曲は、個人的には宇多田ヒカルの最高傑作だと考えており、最も『自然』な宇多田ヒカルを見ることができる。PVでは彼女のこれまでのPVをハイライトで演じるようなシーンも見られる。
当時、『人間活動に専念する』と宣言した彼女だが、このPVではアーティストという肩書きを降りた、吹っ切れた表情の宇多田ヒカルを観ることができ、いちファンとして涙した(活動休止よりも世界観に対する感動の意味の方が強い)ことを覚えている。
非常にシンプルなPVで、画面の向こうで彼女が歌っているだけだが、1人の女性がただ歌っているだけの映像で感動したのは、この楽曲以外ではBeyonceのListenだけである。
個人的に『反則』と感じるこの楽曲のPVは以下に。
【公式】宇多田ヒカル – Goodbye Happiness
活動再開:花束を君に
そして2016年、再婚を経て彼女は『花束を君に』で活動を再開した。
6年越しの彼女は、デビューからしばらく見られていた最先端のアーティストとしての姿ではなく、Goodbye Happinessのようなナチュラルな姿だった。
今後、母になった宇多田ヒカルがどのような路線で活動していくかはわからないが、6年間の人間活動をどのような音楽で表現していくのか、楽しみで仕方ない。
赤ちゃんのキンタマの美しさにビビる
— 宇多田ヒカル (@utadahikaru) 2016年1月30日
おわりに
自己満足に近い記事で恐縮ですが、僕なりに宇多田ヒカルさんに対する気持ちや、楽曲に対する考察(感想…?)を綴りました。
批判的な表現もありますが、僕は彼女の楽曲は全て好きです。
お気に入りのアーティストならいくらでも語れるって人もいますよね。
僕にとってはそれが宇多田ヒカルでして、彼女の強さ、繊細さ、深さ、幅広く表現された彼女の音楽が大好きなわけです。
他の方がお気に入りのアーティストを徹底的に綴っている日記も見てみたいですな。
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みるおか
*1:厳密には宇多田ファミリー(U3)によるSTARだが、当時ヒカルは9歳であり、メインでの歌唱を聴けないため割愛