最終更新2017年1月3日
大豆油、キャノーラ油、ごま油、オリーブオイル…
植物由来の食用油は様々な種類が、様々な用途で使われています。
さて…
食用油の種類と特徴、しっかり理解した上で使っていますか?
油の風味や健康効果、有効成分は加熱の仕方で無意味になってしまう場合もあります。
油の種類と用途について把握し、一番良いパフォーマンスが出来る使い方で調理してあげましょう!
今回は『食用植物油脂の科学と使い方』というテーマで解説していきます。
植物油脂の基礎知識
【参考資料】食用油脂入門(日本食糧新聞社)、脂質の機能性と構造・物性: 分子からマスカラ・チョコレートまで(丸善出版)、植物油辞典(日清オイリオ)、農林水産省/すぐにわかるトランス脂肪酸、農林水産省/油糧生産実績調査等
油の基礎科学
植物油は”グリセリン”という物質に”脂肪酸”という物質が結合しています。
グリセリンは化学的に三本の手を持っており、ここに脂肪酸が3つ結合した”トリアシルグリセロール”(トリ=3の意味)が食用油の正式名称です。いわゆる中性脂肪ですね。
脂肪酸には様々な種類があり、長さや結合の仕方が違っています。グリセリンにどんな脂肪酸が結合しているかで、融点(低温での液体か固体か)や劣化速度、健康効果等が変わってきます。この脂肪酸組成が油脂の特徴を決定します。
不飽和脂肪酸が多い食用油は融点が低く、常温で液体です。劣化速度が速いですが、リノール酸やリノレン酸は人間が合成できない必須脂肪酸で、食物から摂取する必要があります*1。特にリノレン酸は体内でのDHAやEPAの合成に必須です。また、悪玉コレステロールの低下といった健康機能が認められており、植物油は不飽和脂肪酸が多い傾向にあります。
飽和脂肪酸が多い食用油は、比較的安定で劣化しにくいですが、融点が高く、常温で固体になるので、家庭料理では扱いづらいでしょう。動物油(ラード等)に多いです。
ちなみに、これから植物油の種類1つ1つ解説していきますが、『サラダ油』とは低温でも清澄な液体を保つ植物油の総称です。
冷蔵庫で透明な植物油は何でもサラダ油の規格*2を満たします。
規格に満たないのは『白絞油』なんて呼ばれますが、現代では精製技術が上がっているのでほぼ同等品です。サラダ油って謳ってないだけ。昔の名残です。
同じ製品なのになぜか白絞油とサラダ油に分かれてて値段が違ったりうわなにするやめろっ…//
まぁ、サラダ油に関しては勘違いしている人が多いので、補足まで。
より製造に特化した記事は以下で書いているので、そちらをご参考ください。
【関連記事をチェック!】 その油は安全ですか?食用油脂の製造法を解説してみる【遺伝子組み換え作物、溶剤抽出など】
食用油の役割とは?
食用植物油の役割は大きく分けて『栄養』『加熱』『加工』の3つです。
まずは栄養!言うまでもなく脂質は炭水化物、たんぱく質と並んで必須の栄養素です。g当たりのカロリーが高いので食べ過ぎるとデブになりますね!
また、脂溶性のビタミンなどを溶解し、一緒に食べることで体内への吸収を促進します。
次は食用油の加熱機能について…
水と油で比較すると分かりやすいですが、水の沸点は約100℃なので、もちろん100℃以上の温度で調理はできません(沸点上昇とかは無視)。
対して、食用油を使えば、揚げ物など100℃以上での高温短時間調理が可能になるので、調理の幅が広がります。表面の水分を飛ばしたカラカラの揚げ物は油が必須ですよね。
最後が食品の加工機能です。
パンや菓子に練りこむ、あるいは表面に塗布することで、食感を改善したりツヤ出しに使われます。
また食品業界では『炊飯油』が多用されます。専用の植物油を添加してご飯を炊くことで、ご飯が油で薄くコーティングされ、炊飯釜へのこびりつきを防止し、水分の蒸発を防ぐことで米のモチモチ感とツヤが長持ちします。
コンビニおにぎりがカラカラにならないのは炊飯油を使用しているからですよ!
それ以外にも、ごま油等は香り付けに使ったり、食用油は調理において様々な役目を担っています。
油の劣化とは?
油の劣化は大きく分けて3つ。
『酸化』と『加水分解』と『重合』です!
イラストはそれぞれの劣化の原因と起こりうる現象を示しています。
食用油に酸素が反応して酸化すると、異臭の原因になります。また、酸化物は他の油脂の酸化を引き起こし、負の連鎖となります。不飽和脂肪酸で起こりやすい現象です。
食用油が加水分解すると、グリセリンから脂肪酸が分離してしまいます。これはどちらかというと飽和脂肪酸で起こりやすい現象です。
人間の体内で油が分解される過程でも同じことが起こりますが、酸が分離するので、油が酸っぱくなるとともに、加熱時の異臭を引き起こします。また、他の油脂の酸化も誘発します。
油中の脂肪酸濃度は『酸価』という指標*3で表され、小売店の惣菜等において、厚労省が上限を定めています。
油脂の重合は、不飽和脂肪酸同士が結合してしまうことです。
重合が進むと人体で消化しにくくなります。また、粘度を上げ、フライ時の異常な泡立ちの原因になります。換気扇付近で油がベトベトになり取れなくなるのは重合が原因です。
このように、不飽和脂肪酸が多い油脂は、健康効果で優れる反面、比較的劣化しやすい特徴を持ちます。
これらの現象は、油に水が入った状態で加熱すると促進されます。…すなわち、食用油を再利用するたびに起こりやすくなると言えます。
揚げ油を再利用する人もいますが、フライ中に泡が消えない、油を加熱中に新品と違う臭いがするといった現象に気付いたら、大人しく新品と交換しましょう。
食用油に含まれる副産物と有効成分
食用油に含まれる主な有効成分を羅列していきます。
これらは油の生成工程で大部分が除去されますが、一部が製品に残存します。
”精製度が低い油は健康に良い”という思想の根幹になりますが、精製度が低いと劣化しやすくなる等、良し悪しです。
ビタミンE
脂溶性のビタミンで、抗酸化物質として油の酸化防止を防ぎます。油の酸化防止だけではなく、体内でも活性酸素の除去等、有効に働きますね。防サビ剤の油に添加されている場合もあります。サビは金属の酸化が原因ですからね。
いわゆる抗酸化物質は、”自分が代わりに酸化されることで、他の物質の酸化を防ぐ”役割を持ちます。身代わり!
正式にはトコフェロールと言います*4。
植物ステロール
コレステロールと類似の構造ですが、植物ステロールは人体にほとんど吸収されず、コレステロールの吸収阻害を起こすので、血中コレステロールの低下機能がある健康素材です。
よく、植物油に『コレステロールゼロ!!』と書かれていますが、そもそも植物油は全てコレステロールゼロ(ごく微量で表示基準以下)です。
レシチン
菜種(キャノーラ)や大豆に多く含まれますが、製造工程でほとんど除去されます。
副産物として精製され、天然由来の乳化剤として食品添加物になります。アイスクリームやチョコレート、パン等に活用されますね。
カロテノイド
油の黄色は大体コイツです。植物の色素ですね。
光を吸収して油脂の酸化を促進する困る奴ですが、健康効果を持つ物質としての研究が進められています。
セサミンとオリザノール
セサミンはごま油に、オリザノールは米油に含まれる抗酸化物質です。
サプリメントのセサミンはごま油から精製している場合が多いです。
オリザノールは抗酸化作用に加えて体内での抗炎症作用等に関する研究が進められていますね。
トランス脂肪酸は本当に危ない?
不飽和脂肪酸には構造の違いによって、シス型とトランス型に分かれます。
自然界の脂肪酸は通常シス型ですが、”水素添加”という加工方法によりトランス脂肪酸が精製してしまうのです。
水素添加は、不飽和脂肪酸を無理やり飽和脂肪酸に変える加工方法です。現在はあまりこの方法は用いられていませんが、マーガリン等に使用する油は、水素添加油の方が物性的(硬さや融点等)に適しているのです。
過剰摂取により悪玉コレステロールの増加(による心疾患等)を引き起こすとされ、厚労省では摂取基準を総エネルギーの1%未満と定めています。
平成18〜19年に大規模な調査が行われ、上限を超える油脂関連製品が散見されましたが、現在は各社削減に取り組み、家庭向けの精製植物油では検出限界以下となっています。
全種類を徹底比較!油の種類と特徴
むしろ一般の消費者の方はここだけ知りたいかもしれません。
基本的に植物油の使い分けは、脂肪酸組成の違いによる液性の違い、副産物による香りや健康効果の違いが料理にどう影響するかによります。
片っ端から必要なとこだけまとめていきます!
加熱調理用の油
キャノーラ油
原料は品種改良された菜種です!
低温で固まりにくく、無味に近いのでサラダ油等、油の風味を主張させたくない場合に重宝されます。
扱いやすく、劣化速度も遅いので、一般のご家庭で迷ったらとりあえずキャノーラ油を使ってください。揚げ物に最適!
大豆油
キャノーラ油よりもコクと香りが強く、揚げ物の風味が良くなります。
不飽和脂肪酸が多く、キャノーラ油よりは劣化しやすいですが、風味特性からレストラン等で多く使われます。
1回きりなら問題ないですが、重合しやすいので何回も使っているとベトベトになりやすい!
とうもろこし油
原料はとうもろこしの胚芽!とうもろこしの実の根元にある硬い部分です。ここから芽が出ます。
大豆油と脂肪酸組成は似ていますが、ビタミンEが多いので劣化速度は遅め!大豆油とはまた違った風味があるので、そこはお好み。
パーム油
アブラヤシという植物の果実が原料!
飽和脂肪酸が多いので、とにかく劣化しにくく、主張しない風味が特徴!
常温で固体なのがネックですが、業務用のフライ油やショートニングに重宝されています。ギリギリ常温で液体になるように、アブラヤシの品種改良によって不飽和脂肪酸を増やしたパームオレインという種類もあります。
食用以外にも石鹸等の化成品にも使われ、世界で最も多く生産されている植物油です。
その他の加熱調理用油
ひまわり油(オレインリッチ)の特徴はキャノーラ油に近く、あっさりとした風味で素材の味が引き立ちます!紅花油も淡白な風味が特徴です。
ぶっちゃけ一般家庭のフライ用途では誤差範囲です。キャノーラ油と同様に、風味を主張しないので生食用としてドレッシングに使っても良いかもしれません。
米油は高価ですが、豊富なビタミンEに加え、既述のオリザノールも含まれますね。酸化劣化に強く、コクもあるので業務用で人気!
生食に適した油
オリーブオイル
オリーブオイルは風味が強く、オレイン酸を多く含みます。オレイン酸は酸化しにくい不飽和脂肪酸で、リノール酸等と同様、血中コレステロールの減少に寄与します。また、ビタミンE以外にも種々の抗酸化物質(一部のフェノール化合物等)を含み、健康効果に関する研究が数多く進められています。
【参考文献】多様な有効活用が可能なオリーブ成分(バイオミディア)など
原料から遠心分離等で余分な水分や不純物を除いただけの油が、エクストラバージンオリーブオイルです。香味油として使われますが、オリーブオイルの風味や有効成分は加熱により失われるので、なるべく加熱調理の最後に添加するのが望ましいですね。パスタ等は炒めに使用する場合もありますが。また、精製していないので、他の精製油より劣化しやすいです。菌汚染や油の酸敗というより、風味の劣化が激しいので、なるべく短期間で使い切りましょう。
精製したオリーブオイルはピュアオリーブオイルと言われます。蒸留温度を下げる等によって、精製度はキャノーラ等の植物油より低くなっており、それなりに風味が残っています。
ココナッツオイル
ヤシの核果…すなわち種が原料です。アブラヤシの種が原料の場合、パーム核油とも言います。ほとんどが飽和脂肪酸で、常温で固体です。パーム油よりもさらにガッチガチ。
脂肪酸の長さが短い”中鎖脂肪酸”を多く含むのが特徴です。長鎖脂肪酸(=普通の植物油の脂肪酸)よりも分解されやすく、エネルギーとして燃焼されやすいので、脂肪として蓄積されにくい油なのです。
ごま油
ごま油もオリーブオイルと同様、圧搾して油分を回収した後に、不純物だけ取り除いて商品になります。ゴマを焙煎してから精製することが多いです。
風味が豊かで炒め物等に重宝されますが、有効成分は加熱により失われるので、加熱調理の最後に加えるのが常識です。
その他の油
亜麻仁油は必須脂肪酸のリノレン酸が豊富なので栄養面に優れますが高価です。
保湿や便秘に効くとか言われますが、そもそもどんな油でも水分の蒸散は防げますし、消化管で吸収されなかった油はウンコのキレを良くするので便秘には効きます。亜麻仁油に限った効果ではないです。
ブドウ油(グレープシードオイル)はブドウの種子が原料です。不飽和脂肪酸もビタミンEも多いですが、何かが突出しているわけでもなく中途半端。風味がついている割に淡白なので、お好みでどうぞ。
エゴマ油はシソ科植物の種子が原料です。リノレン酸約25%は植物油トップクラスです。ただ高価なので油業界ではモブキャラを抜け出せない。劣化しやすいので生食で使ったほうが良いと思います。
おわりに
長くなってしまいましたが、必要な項目だけ羅列していきました。
最近、油の健康効果が着目されています。美肌は知りませんが、コレステロールの低下や栄養機能など、確実にデータとして蓄積されている結果もあります。
ただ、そもそも油はカロリーが高いので、食べすぎればデブになるのは当たり前。
いつもの油の代替に健康油を使う等の意識がある人は良いですが…
『◯◯油で痩せるってテレビで見たから毎日生でいっぱい食べてるのブヒィィッwww』
みたいに知識が偏って視野が狭くなっている人も一定数います。
健康は野菜や運動を交えたトータル管理が基本ですね。気をつけていきましょう。
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コメント
鉄のフライパンを洗うときは流水に金ダワシでこするだけ。そうすることで油が馴染みやすくなる。洗剤を使うと油が全部落ちてしまいこびり付きの原因となる。
油の層が厚くなってきたら、空焚きをして(かなり熱して)流水で層を洗い流す。フライパンが熱い内に水を使うので水蒸気に注意!特に柄の内側に水が入るようなフライパン(中華鍋などもそう)は、うっかりそこへ水を入れると水蒸気鉄砲となり危険。
[…] 上図は、料理をするなら絶対知っておくべき植物油脂の基礎知識という記事で用いたイラストです。 この記事では『食用油脂の劣化』という項目を700字程度で解説していますが、その内 […]